銚子電鉄に関しては2006年末に社会現象にもなったので、ご存知の方も多いと思いますが、
改めていきさつを説明します。
銚子電鉄は、千葉県銚子市にある小さな電鉄会社です。銚子と外川間、
全長6.4kmが銚子電鉄の全営業路線であり、地元の通勤通学の足として利用されていましたが、
利用客の減少の影響を受けて苦しい経営を強いられていました。
この苦しい経営下にあって、前任の社長は駅舎の改築など放漫な施策を実行し、
さらに経営を悪化させました。
この駅舎の改築に関しては銚子電鉄の親会社関係にあった工務店に対して大量発注させており、
このため市からの援助金が停止されるなど、
私的な利益のために銚子鉄道が利用されたことが明らかになっています。
この社長は放漫経営によって経営状態を悪化させた責任を問われて解任されましたが、
会社の資金を不正に横領していたことが発覚し、業務上横領の罪によって告発されました。
さらに悪いことにこの社長は、信用が高い銚子電鉄名義で銀行から多額の資金を借り入れ、
その資金をすべて私的に流用するというきわめて悪質な方法で資金の横領を行っていました。
この横領額(約1億)が会社の規模に対してあまりに大きすぎたことはもちろんですが、
借り入れ名義は銚子電鉄であるため、当然会社として社長の背任の尻拭いをしなければなりません。
さらに厳しいことに、2006年に続発した各種交通事故を受けた国土交通省の調査により、
枕木や保安設備の劣化や腐食を指摘され、設備の大量交換を余儀なくされました。
そのため、車両の検査費用が用意できず、年度の半ばにして廃業の気配が濃厚になっていました。
そんななか、銚子電鉄の社員や新経営陣がとった手段は何だったか。2006年11月のことです。
銚子電鉄のホームページに、ある日突然次のような文章が掲載されました。
「電車運行維持のためにぬれ煎餅を買って下さい!!
電車修理代を稼がなくちゃ、いけないんです。
銚子電鉄商品購入と電車ご利用のお願い
……弊社は現在非常に厳しい経営状態にあり、鉄道の安全確保対策に、日々困窮している状況です。
年末を迎え、毎年度下期に行う鉄道車両の検査(法定検査)が、資金の不足により発注できない状況に陥っております。
このままでは、元旦の輸送に支障をきたすばかりか、年明け早々に車両が不足し、
現行ダイヤでの運行ができないことも予測されます。社員一同、このような事態を避けるため、
安全運行確保に向けた取り組むことはもちろんですが、
資金調達の為にぬれ煎餅の販売にも担当の領域を超えて、取り組む所存
でおりますので、ぬれ煎餅や銚子電鉄グッズの購入、日頃の当社電車の利用にご協力を賜りたく、
お願い申し上げる次第でございます……」
なぜぬれ煎餅か。銚子は醤油の町であり、銚子電鉄の沿線にも多くの醤油工場があります。
銚子電鉄はその脆弱な経営基盤ゆえ、従来これらの地場産業と提携して、
「銚子電鉄のぬれ煎」を販売し、それを収入源のひとつとしていたのです。たかがぬれ煎と侮るなかれ、
このぬれ煎はかなり人気が高く、鉄道事業本体をしのぐほどの人気がありました。銚子電鉄がとった選択は、
そのぬれ煎の売り上げによって借金を返済し、各種保守点検整備の費用を捻出しようというものだったのです。
事業の公共性を理由に、安易に公的資金の投入を求めるようなことは、彼らはしませんでした。
この「誰の手も借りず、自分達の商売で会社を立て直す」という態度は、世論を動かしました。
ぬれ煎餅という商品が郷愁をさそい、同情を感じさせたこともあるでしょう。
会社の経営が傾いた事情が、社長個人のきわめて悪質な行為の影響によるものだったこともあるでしょう。
しかしなによりも、その実直な態度が多くの鉄道ファンのみならず、一般の世論を味方にしたといえます。
前任の社長が資金繰りをめぐって問題を引き起こしただけに、その建て直しにこそ清廉潔白でありたい、
という社員の思いが届いた結果といえるでしょう。
この問題は、テレビや雑誌など多くのメディアで取り上げられました。ネットでも銚子電鉄救済の機運が高まり、
私費を投じて銚子電鉄に応援広告を出す者が現れました。銚子電鉄のぬれ煎オンラインショップは、
1万件を超える注文を受けて生産量を超え、一時休止を余儀なくされるほどの売り上げを記録しました。
これらの支援のおかげで、銚子電鉄は車両の点検整備を終え、
国土交通省からの改善命令に基づく設備交換も乗り越えつつあります。
全国に、経営危機に瀕している鉄道会社は数え切れないほどあります。
公的資金の投入を受けている第3セクターも含めれば、大変な数になるでしょう。それらの鉄道会社が、
手をこまねいて何もしていないかというと決してそういうわけではありません。これら鉄道会社も、
経営改善のために多くの努力をしているのです。にもかかわらず、銚子電鉄のように救われる電鉄会社がある一方で、
すぐ隣の茨城にある鹿島鉄道(2007.3.31をもって廃線)のように、どんなに存続活動をしても、
廃止を余儀なくされる会社もあります。
この差はどこから生まれるのでしょうか。世間の人が救いの手を差し伸べてくれるかどうかは、
本当に間一髪の差にちがいありません。ただ、少なくともそのためには、自分達の事業に誇りを持ち、
安易な救済に頼ってはならないことだけは、今回の銚子鉄道現象でわかるでしょう。
不二家が不祥事にもかかわらず立ち直りに向けて活動し、世論からも受け入れつつあるのは、
不二家の態度が真摯なものであったことの表れではないでしょうか。
この点は、銚子電鉄の事象と重なるところが大でしょう。
ちなみに私も、ぬれ煎餅を買った一人です。銚子電鉄から配達されたダンボールの中には、
手書きのお礼状が入っていました。
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